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東京高等裁判所 平成11年(行コ)2号 判決 1999年3月31日

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人の主位的請求に係る本件訴えを却下する。

2  控訴人の予備的請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

理由

【事実及び理由】

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1 原判決を取り消す。

2 (主位的請求)

被控訴人が控訴人に対して平成九年一一月六日付けで平成四年三月九日に遡及してなした司法書士の登録取消処分を取り消す。

3 (予備的請求)

控訴人が被控訴人に対し登録者として司法書士法上の権利を有することを確認する。

4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

なお、控訴人は、原審において選択的としていた請求を、当審において主位的及び予備的とした。

更に、原審は、控訴人の原審における第二次的請求を「控訴人が被控訴人に備える司法書士名簿に登録を受けた者として司法書士の地位を有することを確認する。」としていたが、控訴人は、当審において、右の予備的請求欄記載のとおり請求した。

二  被控訴人

1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

一  事案の概要は、二一頁三行目の「しなければならい」を「しなければならない」に訂正するほかは、原判決事実及び理由欄「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

二  なお、控訴人は、原審において、右のとおり主張したほか、当審において、概ね次のとおり主張した。

1 控訴人は、破産宣告を受けた後に復権を得たので、司法書士法(以下「法」という。)六条の八第一項四号、四条三号に該当する者ではなくなったから、右に該当することを理由になされた本件登録取消しは無効又は取り消されるべきである。

2 控訴人は、<1>東京司法書士会に対し脱会届を提出したことはなく、<2>東京司法書士会からの平成九年一一月一四日付け「東京司法書士会の脱会について(通知)」と題する書面が郵送されたことはないから、控訴人の東京司法書士会からの脱会は当然無効である。

3 本件登録取消しは、被控訴人によって組織的かつ計画的に虚構されたものであり公序良俗を定める民法九〇条に反する。

4 登録を取り消した者等への通知方法は、司法書士法だけではなく、民法や行政法も適用されるところ、適宜な方法で通知すれば足りるとした原判決には、民法九七条一項の解釈適用を誤った違法がある。

5 本件登録取消しは、名宛人である控訴人の権利義務に直接影響を与える行為であるから、行政事件訴訟法三条二項にいう処分に該当するところ、その手続きに重大かつ明白な瑕疵があるので無効又は取り消されるべきである。

6 本件登録取消しは、憲法三九条に定める法の不遡及の原則に反するから、当然無効又は取り消されるべきである。

7 本件登録取消しは、控訴人には法六条の八第一項四号に該当する事由がないのに行われたものであり、憲法二二条一項、一三条に違反する。

8 本件登録取消しは、破産法三六六条の二一に定める当然復権をないがしろにして免責を無意味とするものであるから、憲法三二条に違反する。

第三  当裁判所の判断

一  主位的請求について

1 抗告訴訟の対象となる処分とは、公権力の主体なる国又は公共団体が行う行為のうちで、その行為により直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を画することが法律上認められているものをいう。

すなわち、公権力の主体たる国又は公共団体でない者の行為は、特別の規定(例えば、弁護士法六二条)がない限り、行政処分とはいえないところ、被控訴人は、公権力の主体たる国又は公共団体ではなく、その行為を行政処分として取り扱う旨の法令上の根拠もないのであるから、その行為は抗告訴訟の対象となる処分とはいえない。もっとも、法六条の一〇、六条の五第一項によれば、法六条の八第一項四号の場合を含め同項各号に該当することを理由に司法書士の登録を取り消された者が右登録取消しを不服とするときは、法務大臣に対し行政不服審査法に基づく審査請求をすることができる旨規定しているところから、法六条の八第一項に規定する「登録取消し」が行政処分であるかのようにみえないでもない。しかし、この規定は、被控訴人は行政庁ではないけれども、司法書士制度の公共性の故に、行政庁による行政処分と同様な不服申立制度を利用するのが適当であるがために、この制度を借り、不服申立てに対する法務大臣の裁決になお不服がある者には、当該裁決取消しの行政訴訟を提起し得る途を開いたものであって、この制度が用いられるが故に、もともと行政庁ではない被控訴人が行政庁になるわけでもないし、その行為が行政処分となるものでもない。

また、法三条各号の一に該当し、司法書士の資格を有する者は、被控訴人に備える司法書士名簿に氏名その他の事項の登録を受けることにより、司法書士となることができるものであるが(法六条一項)、司法書士が、法四条各号に掲げる欠格事由に該当したときには、その者の司法書士たる資格は当然に失われ、その者は、司法書士名簿に登録されていても、もはや司法書士としての地位を有せず、その業務を行うことができないものと解される。

そうとすると、法四条各号に掲げる欠格事由に該当したことによる司法書士としての地位喪失には、被控訴人のなんらの処分行為が介在することはないから、この点からも被控訴人の行政処分を観念する余地はない。もっとも、法六条の八第一項四号は、被控訴人において、当該司法書士が法四条各号に掲げる欠格事由に該当すると認定したときには、司法書士の登録を取り消すべき旨規定するが、この「登録取消し」は、既に司法書士としての資格を喪失していることを公に証明する公証手続にすぎず、これにより新たに司法書士としての身分を剥奪することとなるものではない。

2 よって、法六条の八第一項の「登録取消し」が行政処分であることを前提とする控訴人の主位的請求は、その前提を欠くこととなり、控訴人のその余の主張について判断するまでもなく、不適法却下は免れない。

二  予備的請求について

控訴人が、平成四年三月九日、東京地方裁判所において破産宣告を受けたことは、前認定のとおりである。したがって、控訴人は、右破産宣告により、直ちに復権を得ていない破産者となり、法六条の八第一項四号に該当したので、破産宣告時において司法書士としての資格を当然に喪失したものといわなければならない。そして、控訴人が、その後、法六条一項に基づき、新たな申請をして登録を受けたことの主張立証もないから、右破産宣告以後、控訴人が司法書士としての地位を回復していないことは明らかである。

そうすると、控訴人の予備的請求はその理由がない。

第四  結論

よって、控訴人の主位的請求を棄却した原判決は不当であるが、予備的請求を棄却した原判決は正当であるところ、原審が棄却した請求を控訴審において不適法として却下することは不利益変更に該当しないから、原判決の主位的請求に関する部分を取り消した上、主位的請求を却下することとし、予備的請求に関する本件控訴はその理由がないから、その点に関する本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条二項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木新二郎 裁判官 末永 進 裁判官 藤山雅行)

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